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【ノベル】邂逅【 Connect☆Planet】

宣伝投稿第四弾です。

既に上げたものからピックアップして、数話まとめてこちらでも紹介していこうと思います。興味があれば、ぜひサイトのほうもよろしくお願いします。

今回のお話はこちらでも掲載しています。

小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n0130iq/93
カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16818023213873340639/episodes/16818093077069729181

 

邂逅

 

「わ、ハイスコア更新しちゃった!あたしってやっぱりすごいかもっ」

一人取り残されたあたしは近くのベンチに座ってスマホゲームを楽しんでいた。今めちゃくちゃ熱い、落ちてきた家の形をしたブロックをくっつけて一つの大きなお城を作るパズルゲームだ。

シンプルながらに得点を競っていかに効率よく落とすかを考えさせられる、頭を使うタイプのゲーム。単純なんだけど、ついつい時間を忘れて熱中してしまう。しかも、このゲームの良いところは充電をあんまり消費しないということ。

まあでも、実はあたしは電池なんてあんまり気にしたことがない。

今のスマホは昔の物と違って、24時間フルで使っても充電が切れるようなことはない。けれど、そのせいか電池が無くなっているのに気が付かず、充電をよく忘れる。きっと、そのせいで三日月館でもスマホの充電が切れてしまっていたんだろう。

(えっと、あたしのスマホは)

「あう、6%。もうすぐ充電切れそう。そういえば二日前だったかな、最後に充電したの」

あたしはこのままゲームをし続けていたら、いくら充電の減りが少ないと噂のパズルゲームでも切れてしまうと思ったのでポケットにしまう。

さっき自販機で買ったジュースが240円。貰った500円はまだ半分以上も残っている。

(うん、何回数えても260円ある!)

不安になって何度も数えてちゃんと260円残っているのを確認すると、近くでチョコレートでも買おうかなと思い、コンビニを探して歩き始めることにした。

コンビニというものは日本人のライフスタイルそのものといってもいいほどに日常に密着した存在だ。日常生活に必要なものはコンビニに行けば大抵手に入る。

飲食物に限らず、衣服、雑誌、スマホの充電器やトランプなどの娯楽まで何でも手に入る。そしてそのほとんどが時間帯を縛らず24時間営業しているという点も魅力的だ。

また、コンビニは買い物だけに留まらず、ATMや公共料金の払込み、宅配便といったサービスも兼ね備えている。例えるなら現代における万事屋、まさに何でも屋なのだ。

フランチャイズ方式に当てはまるコンビニは一時までは店舗を増加し続けていた。

しかし、コンビニの数は年々減りつつある。

あらゆる物価の価値が上がり続ける中、突如現れた魔獣マインドイーターの存在。それらに伴い増える軽犯罪。それに対してコンビニ側も様々な戦略を立ててきたが、それを加味しても魔獣マインドイーターによる被害などの影響は想像以上に大きかったのだろう。

あたしはたまたま近くに見つけたコンビニに目を輝かせ意気揚々と入ることにした。

(んー、クーラーが効いていて涼しいなー!えひひひ、260円で何を買おうかな?)

お小遣いと合わせてちょっぴり高いものを買おうかとも考えたが、あとで夜深ちゃんに無駄遣いを咎められるのも嫌なので、手元にある260円で買えるものを探すことにする。

(あ、この漫画、新しいの出たんだ!でもさすがにこのお金じゃ買えないよなぁ)

一通りコンビニの中を見回してさんざん悩んだ挙句、結局は初めに目をつけていた新作のクッキーの袋詰めを手に取り、うきうき気分でレジに持っていく。

「えひひひ、これ、前に見かけた時絶対食べたいと思ってたんだよねー。って、あ。こんなことだったらジュース取っておけばよかった」

クッキーは美味しいけど、口の中がぱさぱさになるだろう。パッケージにはサクサク、しっとりの食感と書いてはあるが、絶対に飲み物が欲しくなる。

歩きながら己の中で葛藤する。

今からコンビニに戻って、手持ちの小遣いを使ってでもクッキーに合いそうな紅茶でも買おうか。

けど、夜深ちゃんにバレたら怒られてしまう。

(いや、待てよ。うまくごまかせるかな?)

自販機に売っていなかったとしても、さっき買ってきたと言えばすんなり誤魔化せるのではないか。夜深ちゃんもきっとそこまでしっかり見ないだろうし。あたしは馬鹿じゃないって事見せつけるチャンスだよね。絶対誤魔化せるはず!

千寿流の頭の中に浅はかな企みが走る。そう決めたならもう迷うことはない。紅茶を求めて再度コンビニに向かうことにした。

「ありがとうございましたー!」

目的の紅茶を手に入れてほくほく顔の千寿流。

(ん、なかなか開かない。こっちからのほうが開けやすいかな)

クッキーの袋に悪戦苦闘するあたし。この手の袋は上手く開けないと中身が全部バラバラに飛び出してしまうのだ。何回か経験がある。これがなかなかに難しい。

歩きながら袋を開けることに夢中になっていたので、あたしは前が視えていなかった。だから必然、相手も前方を疎かにしていたのであれば。

「痛っ!?あぅわ!?ごご、ごめんなさいっ!えと、前視ててなくて!」

「…」

その人物は黙ったまま通り過ぎる。

始めからぶつかったことなんか気にも留めていないかのように。

きっと、気を悪くしてしまったんだろう。あたしは地面に落ちたクッキーの袋を拾い上げることも忘れて謝罪をする。

「そ、そのっ!ほんとにごめんなさいっ!」

背丈はあたしと同じくらいに視えた。髪型は判らない。だって全身を薄茶色のローブのようなもので覆っていたから。

9月といえどこの時期はまだ暑い。それなのに、砂嵐も吹きつけないこんな街中でローブを纏っているのは、違和感としかいいようがなかった。

ローブを着た人物がゆっくりと振り返る。

「…」

声が出なかった。

その瞬間。

声帯も聴覚も失ったように世界が制止した。

物事には全てに意味がある。

バラバラに見えるピースも重ねてみれば違う形が視えてくる。

一見は意味のないような事柄でも、“意味の無い”という意味を持っている。

それは無駄という価値観。

無駄があるから意味合いを持つものがより強く強調される。

ならこの空白に意味はあるのだろうか。

自分の発した声すらも聴こえないこの世界で、一体何の意味合いを見つめればいいというのだろうか。

「っはぁ!…はぁ、はぁ」

静止した時の中、あたしは呼吸することすらも忘れていた。喧騒と鳴り響く景色とともに、動き出した時間が新鮮な空気を肺に供給する。

気が付くと先ほど振り返った人物、少女はもう目の前にはいなかった。

そのまま真っ直ぐ見据えたまま、バクバクと騒ぎ立てる心臓の音が落ち着くのを静かに待った。

あたしを見渡すことはしなかった。きっと、少女は何処にもいないことが解っていたから。

それに仮に見渡してみて、もし彼女を見つけてしまったら。また時間が止まってしまうかもしれない。そう考えると、目線を動かすことなんて事はとても出来なかった。

それよりも気になったことがある。

(なに、さっきの。あたしと“おんなじ顔”。気持ち悪い)

同じ顔だった。

一瞬だけだったのだ。もしかしたら他人の空似。顔が似てるだけの別人。よく見れば全く違う顔かもしれない。

目つきも、その全身から醸し出す、取り巻く空気のような物も違った。

けれど。

そんな見た目とか理屈とか、そういう話で説明できないほどの感覚。

言葉よりも先、心のもっと奥深く、魂に突き刺さるような。そんな強烈な印象。

その印象があたしと彼女は同じだと、あたしに強く訴えかけた。

「や」

「ひゃいぃいいぃ!?」

後ろから声とともに肩に軽く手を叩かれる。

「なーに、その反応。なんか怖い物でも見た?」

「え、えっと、いや、そんなことはない、けど」

嘘だ。

「えっと、あたしは待ってただけだよ」

嘘。

「あたしだってお留守番ぐらい出来るもん。それに怖い物なんて何もないし」

それは嘘。

「ほらそれに、このクッキー!あ、あれ?あたしクッキー買って」

「もしかしてこちらのことでしょうか?落ちていましたよ、千寿流ちゃん」

そういえばそうだった。さっき驚いてクッキーの袋を落としてしまっていたんだった。

額に滲む粒のような汗をぬぐいながら、クラマちゃんからクッキーの袋を受け取る。幸いにも落ちたことで中身が割れてしまった。ということはなさそうだった。

「あ ちずる!そのクッキー あたらしい やつでしょ!シャルルも たべてもいい?」

「う、うん!もちろんだよ!えひひひ、みんなも一緒に食べようよ!」

シャルちゃんはお菓子に目がない。新作でも旧作でもなんでもだ。そして、甘いお菓子ならどんなものでもすごく幸せそうに頬張る。あたしもシャルちゃんが、美味しそうにお菓子を食べているのを見ると幸せな気分になるのだ。

シャルちゃんのナイスアシストで何とか話題を逸らせそうかな。そう思った時。

「ふーん。今日、そんなに暑い?」

ドキリとした。それと同時に表情を悟られないように俯いた。馬鹿だ。そんなことをしたら何か後ろめたいことがあると言っているようなものじゃないか。

あたしは嘘を吐くのが下手みたいだ。

「まあいいけどね。もし体の調子が悪いようなら早めに言いなよ。無理をしても誰も得しないからさ。ね」

「う、うん」

夜深ちゃんもそれ以上は言ってこないけど、きっとあたしが何か隠し事をしていると気づいているだろう。本当のことを言ったほうがいいのかな。でも、言っても困らせるだけかもしれない。

あたしは気絶してたって話だけど、大口おーくでは随分とみんなの足を引っ張っちゃったみたいだったし、できればみんなにこれ以上心配をかけたくない。

あたしはあたしなりに精一杯考えた末に、先ほどの出会いを黙っている事に決めた。

「ところでさ、夜深ちゃんたちはどうだったの?カフェでいろいろな話を聴いてきてくれたんでしょ?」

「ああ、そうだったね。確証ってわけじゃないけど。ここ藤沢市には大きなショッピングモールがあるでしょ?そこからさらに北方面に向かうとこれまた大きな廃病院があるんだよ。そこで魔獣マインドイーターを。件の、水性の魔獣マインドイーターを見かけたって話なんだよ」


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